性能を「使いきる」ということ

2014.08.31 Sunday

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    アーチェリーを教えることを専門にやっていると、とんでもない勘違いをしている人が多すぎてビックリします。アーチェリーは、ネダンが高い道具を使えば当たるというスポーツではありません。

    今回は、アーチェリーの上達のために大切な事を2つ、お伝えします。ひとつは矢について。もうひとつは実射する距離についてです。

    ■矢について

    「そろそろカーボンの矢を買おうと思ってるんです」「やっぱり矢はカーボンの方がいいですか?」そんな相談がとても多いです。ほぼ全員が、先輩やショップから、そろそろカーボンの矢に買いかえた方がいいと言われた事があるハズです。

    最初に結論から言うと、50m・30mの72射で600点前後程度の人ならば、アルミ矢の方が高得点を出す事ができます。アルミの矢よりもカーボンの矢の方が高性能で高得点を出せると錯覚させるようなセールストークに踊らされてしまうと、高い買い物をするばかりか、とても扱いきれず、自分が出せる得点の限界を下げてしまいます。

    試合に参加する時や、練習会場で多くの選手の使用機材をチェックしていますが、70mで300点も出せない(トータル600点に満たない)選手どころか、500点前半の選手の多くが、ACEやX10などの、「超」高級な矢を使っています。矢の飛翔スピードがそれほど高くない選手であっても、超高性能な矢を使っています。性能が発揮できないのは間違いないのに、どうしてそのような無理なステップアップをさせるのでしょうか。単に高いものを買わされてる状態になっているのです。

    矢を高額な製品にステップアップする理由は、いったい何でしょう。それまで使っていたグレードの矢で、出せる得点に限界を感じるレベルに到達したからでしょうか。シャフトの曲がり精度に5倍の差があることが理由で、30mで360点のパーフェクトを逃したとでも言うのでしょうか。残念ながら、そんな人は存在しません。

    しかしながら多くの人が、アルミよりもカーボンの方が当たると思い込んでいます。「アルミを使うと当たらない」くらいに思っている人も多いです。しかしそれは、大いなる勘違いです。90パーセント以上の選手は、道具をグレードアップしても出せる点数に変化はありません。

    私はアウトドアのシーズンは70mの試合にしか出場しないので、そんな時はカーボンの矢を使います。しかしインドア(18m)の試合では、アルミの矢を使います。しかしそれはインドア対策の短距離練習だけではなく、ふだん通りに30mから70mまで使う事が多いです。わかりやすく説明すると、シーズンの半分はカーボンを使い、半分はアルミを使っているのです。



    そのため秋口からはインドア用のアルミ矢を使いはじめます。インドア用の矢なので、羽根は鳥の羽根(4インチ)を貼って使っています。



    このアルミ矢は、イーストン社のXX75プラチウムです。そう、初心者が弓を買うときに最初に購入することが多い、練習用とされている競技用の中では最低グレードの廉価品です。これを最初に買って、上手くなってきたらカーボンに買い替えろと言われているハズです。私がここでこの矢の話題に触れるということが何を意味しているかおわかりだと思いますが、この矢、安いクセに、実はかなりの高性能なんです。

    70mでは、300点以上当たります。ハーフ(50m30mラウンド)で点数を取ると、いつも大体650点程度(50m310点・30m340点)は出ます。この矢は、鳥羽根を貼ったインドア仕様のままで、660点を超える点数を当てています。670点までは、アルミもカーボンも、出せる得点に変わりありません。本当に性能の違いを感じることができる頃には、ハーフで680点を出せるレベルになっているハズです。どんなに高価な製品であっても、自分のレベルが上げない限りは、性能を引き出すことはできません。ネダンの差は5倍にもなりますので、機材のステップアップは自分のレベルを5倍くらい上げてから考えても、決して遅くはありません。

    余談ですが、私がシングル(90m・70m・50m・30m)でのゴールドバッジを取得したのは、高校生だった平成3年です。当時使っていたのはXX75のアルミ矢(ノックはテーパータイプの接着タイプ 当時はユニブッシングが存在しなかった)で、申請点数は1218点でした。強風でもなければ1250点程度は出てました。ACEを使うようになってから1280点程度が出るようになりましたが、これは90mでの得点の伸びが大きいです。90m以外での点数の伸びは、ほとんど感じられませんでした。今年からは京都府アーチェリー連盟では、90mを含むシングルラウンド競技が廃止されました。カーボンの矢というのは長距離を飛翔中の矢が、横風などの外乱からの影響を受けにくいことで90mで失点しにくくなったのですが、もう90mの競技はありません。今では最長距離が70mになったので、矢の性能差が出にくくなりました。そう、ネダンが高くて高性能な矢のアドバンテージがなくなってしまったのです。何とも皮肉なものです(笑)



    この日は30mでデモンストレーションをしましたが、みんなが見ている前でほとんどの矢を10点に当てています。30mは、あと少しで350点というところまで当てました。ひとつの的に3射ずつでしたが、矢はほぼ同じ場所に的中するので、おかげでノックも羽根もボロボロになってしまいました。

    的中に必要なものは自分の射の精度であって、素材が的中を左右するものではありません。5倍のネダンの矢を使っても矢が黄色を避けて刺さるのであれば、道具のグレードをいったん下げて、基礎から積み上げなおす事が的中への近道になるのです。

    ■実射の距離について

    ショップに行っても言われますし、クラブの先輩からも言われます。みんなで、よってたかって、とにかく70mを射たせようとします。「試合は72射だから、それだけ射てるだけの体力を」などと言われることもあります。しかしここにこそ、上達の妨げとなる決定的な落とし穴があります。

    アーチェリーは正しい身体の使い方さえマスターしてしまえば、どんな距離を射っても当たります。しかし、そのためには大切な事を、ひとつずつ積み上げなければなりません。実射というのは自分ができるようになった事の最終確認でしかありません。自分にまだ積み上げなければならない課題があるうちは、「距離を射つ」行為や、「的を狙う」行為は、多くの場合は技術修得の妨げにしかなりません。ですから上達過程にある初・中級者が、70mや50m先の的を狙う事に、大きな問題があるのです。

    たとえ上級者であっても、「狙って」、「当てよう」とすると、自分の身体の各部のチェックの多くがスポイルされてしまいます。そのため、自分がまだ何をどんなタイミングで確認しなければならない、または確認しなければならない事項を忘れてしまっているようなレベルにある中級以下の人は、的に的紙を貼って、それを射ってはいけません。そもそも試合になったら点数が出ないような中級者は、自分の重心の位置が変わっていても気づいてないので、身体の修正ができずに当たらなくなっているのです。

    発射する矢は放物線を描いて飛んでいきます。そのため距離が遠くなればなるほど、弓を持っている腕を上方に掲げる格好になります。そのため弓を持つ側の肩が浮いている人(選手の8割)は、長距離の練習をすればするほど当たらないというドツボにはまります。自分の重心位置を正しく把握できてない人(選手の9割)は、長距離の練習をすればするほど後傾になり、腰を的側に突き出すような無様な格好になります。残念ながら、当の本人は気づいてません。気づいてたとしても、もう自分で修正することができません。そうなってしまう理由はひとつです。レベルアップできてない人間に長距離を射たせ、フォームを崩させてしまった状態を「反復練習」させてしまうからです。崩れてしまったフォームを徹底的に身体に覚えさせてしまう事になりますので、修復ができなくなってしまいます。

    アーチェリーの醍醐味は、的の中心に自分の放った矢が吸い込まれるように当たることです。しかし、本当に当たるようになるには、本当に正しい事を学んで、正しい努力の方法を実践しなければなりません。あなたに教えてくれる先輩や、親切に教えてくれる人たちは、本当に確かな指導者でしょうか。そこをしっかりと見極めることが、スポーツをツライものにするか、楽しいものにするかを決定的にしてしまいますので注意が必要です。30mで300点に満たない人は、そこから距離を伸ばして練習するのはやめましょう。70mばかりを射つのは、30mで330点を切らないレベルになってからにしてください。

    ■さいごに

    アーチェリーは、身体の使い方のスポーツです。多くの勘違いがあるようですが、ひたすら実射を繰り返したところで、大して当たるようにはなりません。誰がそんな大ウソを言い出したのか知りませんが、「どんな射ち方であっても、毎回おなじ射ち方ができれば、毎回必ず同じ場所に当たる」というのは誤りです。少なくとも、身体に無理な負担がかかる状況に陥っていて、それを維持するためにおかしな向きの力が加わっている状態で、どうにかこうにか実射できているような状態が、毎回確実に再現できるわけがないからです。

    実射ばかりを繰り返しても、うまくなりません。実射よりも大切なのは心肺機能、筋持久力になります。身体各部の柔軟性の高さも必要です。それらを高めた上で正しいフォームを獲得していくことが大切です。そして実射以外の方法で基礎を積み上げていき、実射をはじめてからは無理のないステップアップを果たし、時間をかけて徐々に距離を伸ばしていきます。時には段階ごとに戻って確認と修正を繰り返します。パワーを上げるような筋力アップを目指す、きついトレーニングは必要ありません。機材のステップアップは、本当に最後の最後です。

    多くの教習施設やクラブ、またはショップでの教習では、これらの順番が完全に狂っているのです。ですから、ほとんどの人がアーチェリーがうまくなりません。アーチェリーなんて、アスリートレベルの低いスポーツです。正しい方法を学べば、誰だってカンタンに上級者になれるのです。

    機材のステップアップに関しては、ショップや選手にではなく指導実績のある指導者に尋ねてください。基本的にはショップは、販売するために都合のいい事しか言いません。機材サポートを受けているトップレベルの選手に関しては、当たり前ですが、サポートを受けているメーカーの製品を勧めたがるので、機材の選択について信用してはいけません。選手は基本的に指導のメソッドを学んでませんので、テキトーな事や、上っつらの事しか言えません。初心者には初心者用の、中級者には中級者用の、上級者には上級者用の道具を揃えるようにしてください。

    というか、今では初心者用や、練習用の位置付けの製品で、上級者と対等に勝負できる性能がありますよ。大切なことは、自分が扱いきれる性能であるかという事です。扱いきれる性能であれば、それは自分の身体の一部として性能を発揮させることができるのです。扱いやすく、正しく当てることができる安い道具と、飼い主の手をかむような、どれだけ練習しても黄色に当たらない、何倍も高い道具。自分にとってどちらが幸せかなんて、私が言うまでもない事だと思うのですが・・・(苦笑)