高校野球とアーチェリー

2018.08.23 Thursday

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    今月は9日から21日まで、13日間ものお盆休みを頂戴しました。家族と猫を連れて新潟に帰省した期間は、涼しくて快適な日が続きました。ほとんど仕事らしい仕事もせず、31冊の本を読み、映画を10作以上観て、あとは勉強したり、のんびり過ごすことができました。昨年までの2年間が異常なまでの激務でしたので、こうして自分の時間を過ごすことができることが何よりの幸せです。

     

    ヨーロッパのバカンス期間もようやく終わりが見えて、各メーカー担当者との連絡がつくようになり一安心です。バカンスが終われば輸送会社も人員不足ではなくなりますので、入荷のペースが早くなります。例年、バカンス明けからクリスマスまでは入荷の遅れはありません。これで安心して注文できますね。今年は新作ラッシュですので見逃せません。

     

    ■ステロイド注射

     

    13日間という最も長いお盆休みを頂戴したのは、身体を完全に休めたいという理由もありました。消耗品として多くの方が愛用されてるアバロンのカーボン矢の注文が非常に多く、毎日のように多くのシャフトカットに追われてました。シャフトカットとシャフト内部のクリーニング(シャフトカットしたポイント付属の完成矢以外)をしてましたが、あまりの量の多さに左手首が悲鳴を上げてました。

     

     

    これまでスポーツ医療チームの皆様をはじめ、多くの方に治療していただいてましたが、どうやら限界のようでした。手の使いすぎによる痛みを伴う慢性的な炎症を起こしている部分は、休み最終日の21日に、近所のペインクリニックでピンポイントに注射してもらいました。

     

    あれほど長いあいだ手技に頼ってた痛みですが、注射1本で痛みが激減しました。素晴らしいというか恐ろしいというか、ステロイドの効果を体感することができました。しかしながら慢性的な炎症を発生させた原因を根絶しないことには解決しないと、先生からキツく注意を受けました。シャフトカットは無料ですが、シャフトカット後のシャフト内部のクリーニングは、今後は矢を購入された方がご自身で行って下さい。アルコールを含ませた綿棒でシャフト内部を脱脂するだけの簡単な作業ですが、出荷量増大に伴い身体の回復が間に合いません。どうぞご了承下さい。

     

     

    フル稼動しているアローカッターは、シャフトを載せて転がすマウント部分が丸く磨耗して銀色になっています。マウントに載せたカーボンシャフトを軽く1回転させるだけでカットされるのですが、それを無数に繰り返しているうちに固いアルミ素材がカーボンシャフトによって削れていくのです。カーボンシャフトが砥石のようになっているのですね。機械が磨り減るペースで矢を作ってますので、私の身体も磨耗するはずです。

     

    機械は磨り減って使えなくなれば買い換えたらイイのですが、身体の部品は交換することができません。身体は使ったら休めないと修復しないのです。修復が間に合わないうちにすぐに使ってしまうと、身体は機械のように物理的に磨耗してしまいます。痛みを感じた時には故障が進んでいることが多いです。

     

    ■高校野球

     

    夏の風物詩高校野球のニュースが賑やかです。各競技のインターハイはニュースにもなりませんが、高校野球は別格です。テレビと新聞社の力の強さが、どれほどのものかがわかります。優勝した大阪桐蔭の強さは別格ですが、今回は準優勝の金足農業の報道が過熱で違和感を覚えます。メディアは国民に感動ポルノを植え付けたいのでしょう。

     

    日本人はこうした、出せる力を最後まで振り絞って、最後は力尽きて戦えなくなる姿から感動を見出すのが好きな、ドSな国民性のようです。私にはない感覚です。日本人はこうした残酷な話が大好きで困ります。どれほど根性論を愛してるのか知りませんが、指導者として本来やってはいけないことなので、決して美談にしてはいけません。

     

    「秋田大会から甲子園の準決勝まで1400球近くを投げていた蓄積疲労に、気温33度の猛暑が追い打ちをかけた。「4回くらいから足が動かなくなった」。それでも「周りの励ましの言葉のおかげでここまでこれた。甲子園は自分たちを強くしてくれた」と“平成最後の怪物”は甲子園に感謝した。」

     

    エース1人を酷使させ続けるプレイは、スポーツ指導を職業とする私の立場には危険な行為にしか思えず、前時代的な取り組みにしか見えません。公立が私立に勝つことが凄いのではない。人数が少ないチームが大人数のチームに勝つことが凄いのではない。決勝まで戦えたという結果が、本当に大切なことを完全に隠してしまっている。どれだけ手厚いケアを施し続けてきたとしても、疲労が回復するペースが追いつくことなど到底不可能なのです。

     

    選手を勝利のための兵隊にしてはいけません。それはもはやスポーツではありません。本当に凄いのは選手の疲労とストレスを最小限に抑えるためにパフォーマンスの高い選手の人数を揃えて戦力を分担させて、最高のパフォーマンスを常に全員が発揮できる環境を整えることができているチームなのです。

     

    高校野球で活躍して有名になった選手が後にプロ野球で活躍している人が極端に少ないのを見ると、未成年のうちに肩を使わせることがどれだけ悪影響なのかと思います。

     

    「アメリカでは「ピッチ・スマート」という名前で年齢ごとの投球数と登板間隔を定めている。高校生に相当する17〜18歳では76球以上投げた投手は4日以上の登板間隔を開けなければならない。しかるに今年の夏の甲子園では、金足農業の吉田輝星(こうせい)は、8日の初戦から大会を通じて計881球を投げた。アメリカなど海外の指導者が聞けば、卒倒するような数字だ。」

    「日本からMLBに渡る投手に対するメディカルチェックが厳しいものになっているのも、ほとんどの投手が「甲子園の洗礼」を受けているからだ。


    甲子園で多くの球数を投げた投手の将来は、明るいとはとても言えない。
    12年前に「ハンカチ王子」との愛称で全国的な人気となった斎藤佑樹は今年30歳となり、進退をかけるマウンドが続いている。他の投手も一時的には全国的に注目されたが、松坂大輔を除いてプロで活躍した投手はいない。その松坂にしても、同世代屈指の投手と言われながら、200勝には遠く届かない。成功したと言い切れないのではないか。」

     

    ■アーチェリーはどうか

     

    肩に限ったことではありませんが、身体は使えば消耗します。クールダウン・アイシング・休息期間・ケア、これらが十分な環境であっても消耗は進みます。特に肩は消耗品です。見た目は大きく成長しているように見える高校生でも、関節の育成はまだまだ未成熟です。

     

    野球の投球と違ってアーチェリーは、射の1回の動作のストレスは大きくありません。しかし関節各部や筋肉と健は、1射の動きで様々な角度に複雑な動きをします。1射のストレスは少ないのですが、野球の投球とは比べ物にならないほどの、多くの回数をこなすことになります。そのため正しい身体の使い方ができる指導を受けておらず、ドローイングのアプローチやフォームに誤りがある場合は、練習を続けるとたちまち肩や手首を損傷します。

     

    先に書いたアローカッターのアルミ製の台座がカーボンシャフトによって磨耗が進行するように、負担のかかっている部分や、擦動が生じる部分に関しては、ドローイングの回数に比例して磨耗が進行します。練習後に数日の十分な休息期間があれば修復されますが、多くの場合は回復が間に合わないまま次の練習で磨耗を進行させてしまっています。

     

    アメリカの野球でのピッチスマート同様に、アーチェリー選手の肩を守る取り組みを行う必要があります。多くの実射をこなせば、誰もが上手くなることなどないのです。ほとんどの選手が上達を願って多くの実射を続けることで身体への負担を増大させ、肩を磨耗させて痛みを抱えてしまっているのです。

     

    肩は消耗品ですが、痛みや故障を抱えてしまっても、新たしい肩に交換することができません。フォームに誤りがあったり取掛けやドローイングのアプローチに誤りがあるような場合、指導者や先輩がアーチェリーによる痛みや故障を抱えているような場合は、そこでの取り組みが根本的に誤っているのではないかと考えられます。

     

    アーチェリーでは肩を構成するインナーマッスルを正しく使うことができていれば棘上筋を傷めてしまうこともありませんが、三角筋や僧帽筋などのアウターマッスルに依存する誤った身体の使い方になっている人には棘上筋がアウターマッスルに負けて伸びてしまっていたり、切れてしまっている人もいます。それが原因で肩関節不安定症になっている人も多いのですが、切れた時は痛みを感じていても、次第に痛みを感じなくなる場合もあり、自分が抱えてしまっている肩の故障の事実を知らないまま練習を続けている人もいます。

     

    野球とアーチェリーは異なるスポーツのように見えますが、肩への負担が多い部分は共通しています。どちらのスポーツにおいても故障を防ぐためには肩関節のあらゆる方向への可動域(柔軟性)の高さと、あらゆる可動域からでも発生させることができる筋力の強さが必要です。

     

    特にアーチェリー選手は肩関節の柔軟性が乏しい人が多いので、日常で動かすことがほとんどない特定の角度への伸展が退化したも同然になっている人がほとんどです。未成年では肩の構造が完成してないままストレスにさらすことになるので、遠い距離を射たせるための強い弓を引かせると、たちまち身体に異変をきたし、生涯にわたって故障を抱えさせてしまうことになるのです。

     

    正しいフォームを習得して、脆弱なインナーマッスルを養成していくには時間がかかります。身体の状態を身体の専門家から正確な指示を受けて、適切なステップアップを踏んで上達を果たすことができた時になってはじめて、強いポンドで年間10万射以上をこなしても痛みや故障と無縁の身体でいられるようになるのです。

     

    その中にひとつでも正しくないものがあれば、30ポンド台のような弱い弓でも、あっけなく肩は壊れます。肩は消耗品ですので、回復までの時間を設けなければ、わずか半年程度で痛みや故障を抱えてしまいます。治療には時間がかかりますし、完全に元通りに治すことはできません。

     

    ただひたすら実射を繰り返すことは、練習にはならないのです。自分の身体を虐げているだけで本当の上達を知ることができないまま、時間だけが過ぎていくのです。アーチェリーが上手くなるための理想的な身体を作り、指導のプロフェッショナルから正しい身体の使い方を学んでマスターして、痛みや故障と無縁な最高に面白いスポーツライフを過ごしましょう。

     

    さて、今夜は大型台風が直撃です。前回直撃した台風よりも風が強く感じます。大雨も心配ですね。大きな被害がないことを祈ります。